「運動した方がいいのはわかってる。でも、膝や腰が心配で……」
こう話していたのは、地域の健康教室に久しぶりに顔を出した70代の女性。
似たような声、いろんな場面で聞いてきました。関節が気になるから運動を避ける。だけど、動かさないことで、かえって関節が硬くなり、筋力も衰えていく。
この悪循環を断ち切るには、「やらない理由」を見つけるよりも、「できる運動」を探した方が早い。
今回は、膝や腰に負担をかけずに取り組める有酸素運動を紹介します。
動けばいいってもんじゃない
運動というと、走ったり、重いものを持ち上げたり、汗を流してゼイゼイするようなイメージがあるかもしれません。でも、それがすべてじゃありません。
関節に不安がある人に向いているのは、次の3つを満たす運動です。
- 体重が関節に乗りすぎない
- ゆっくりした動きで衝撃が少ない
- 全身を使って、呼吸も自然に深くなる
この条件がそろえば、関節に痛みがある人でも、安心して始められます。

負担が少ない有酸素運動5選
1|水中ウォーキング
「ただ歩くだけでしょ?」と思うかもしれませんが、水の中では全然違います。水の浮力で体重が軽くなるので、膝や腰への負担がぐっと減るんです。
実際、陸上の約1/3〜1/10の負荷に抑えられるという報告もあります(※日本整形外科学会資料より)。
泳げなくても大丈夫。ただプールの中をゆっくり歩くだけ。膝が痛い方には、まず最初におすすめしたい運動です。
2|エアロバイク(室内サイクル)
「外は寒いし、雨の日は無理」そんなときに便利なのが室内サイクル。椅子に座ったまま、ペダルをこぐだけのシンプルな動き。
地面に足をつけないので、足首や膝への衝撃もありません。
音楽を聴きながらでもできるので、長続きしやすいのもポイント。筋力とともに心肺の働きも鍛えられます。
3|平地のウォーキング(やさしいバージョン)
ウォーキングは定番だけど、条件を間違えると膝にきます。おすすめは「平地」での「ゆっくり歩き」。
坂道・階段・アスファルトは避けて、芝生や土の上を選ぶ。靴もクッション性があるものを。歩幅は小さく、会話できるくらいのペースがベスト。
実は、この“のんびりウォーキング”がいちばん続きやすく、生活の中に自然に溶け込みます。
4|チェアエクササイズ
「もう外に出る気力がない」「膝が痛くて立つのもつらい」そんな方は、椅子に座ったまま運動しましょう。
足踏み、かかとの上げ下げ、つま先の曲げ伸ばし、腕を上下に振る運動など。テレビを見ながらでもOK。
運動している自覚が薄くても、ちゃんと筋肉は刺激されています。
かつて私がリハビリを担当した80代の男性が「こんな動き、意味あるのか?」と話していましたが、1か月後には「階段の上りが楽になった」と教えてくれました。
5|太極拳やスローモーション体操
動きがゆっくりだからといって、ラクなわけではありません。太極拳のような運動では、脚でしっかり体を支えたり、動きの途中でバランスを保ったりするので、体幹や下半身のトレーニングになります。
転倒が心配な方にとって、「ゆっくり動く→止まる」という一連の流れは、転びにくい体づくりにつながります。
安全に始めるために、これだけは覚えておいてほしい
関節にやさしいとはいえ、油断は禁物。始める前に以下をチェックしてください。
- 動き出す前に、関節をぐるぐる回したり、肩をゆっくりまわすなどの準備体操
- 痛みが出たらすぐにストップ。無理しない
- 水分をこまめに補給。寒い時期でも油断しない
- 息がゼイゼイしないくらいの運動強度で。会話できるペースが目安
いきなり「毎日30分!」と決めないこと。まずは週2〜3回、1日10分から始めてみてください。

実際にやってみた話
私が地域の体育館で運動教室をサポートしていた頃、ある80代の男性が、最初は「椅子で足踏みなんて馬鹿らしい」と笑っていました。
でも、1か月後には「外に出るのが面倒じゃなくなった」「痛みが前よりましになった」と、笑顔で話してくれました。
こういう変化を見ると、どんな運動でも“やってみる価値”はあると実感します。
終わりに:今日の一歩が、未来の自分を変える
「膝や腰が痛いから動けない」という言葉を聞くたびに、「いや、動かし方を変えれば、きっと変わる」と思っています。
年齢は関係ありません。派手な運動でなくていい。続けやすいこと、痛みが出ないこと、少しずつでも身体が軽くなる感覚があること。
それだけで、関節の状態も気持ちも変わってきます。
迷っているなら、今日、椅子に座って足踏み10回。
それが最初の一歩になるかもしれません。