「最近、あまり食べられなくなったの」
往診に伺った高齢者の方や、接骨院に来る患者さんからよく聞く言葉です。若い頃は大盛りのカツ丼をペロッと平らげていた人が、年齢を重ねると半分も食べきれなくなる。
私も還暦を迎えて、「昔よりご飯茶碗が小さくてちょうどいいな」と感じることが増えました。
食欲の低下は自然な老化現象の一つではありますが、そのまま放置すると筋力低下や体調不良、フレイル(虚弱)の入り口になりかねません。今回は、栄養士トレーナーとして、また現場で患者さんと向き合う柔道整復師として実際に伝えている「食欲が落ちても栄養を補う工夫」を紹介します。
なぜ年齢とともに食欲が落ちるのか?
理由はいくつもあります。
- 消化機能の低下:胃の働きが弱まり、少し食べただけで満腹感が出る。
- 味覚や嗅覚の変化:味を感じにくくなり、食事が楽しくなくなる。
- 薬の影響:高血圧や糖尿病の薬の副作用で食欲が減ることもある。
- 生活リズムの乱れ:昼夜逆転、孤食(ひとりで食べる食事)なども要因になる。
往診の際に出会った80代の男性は、「ご飯はもう要らない」と言いながらお菓子だけ食べていた時期がありました。よく話を聞くと、入れ歯が合わなくて噛むのがつらかったんですね。原因は「年だから」だけではないんです。
工夫① 少量でも栄養価を高くする
食欲がない時に「たくさん食べなきゃ」と言われても無理があります。そこでポイントは“少量でも効率よく栄養をとる”こと。
たんぱく質を意識
筋肉を維持するために欠かせないのがたんぱく質。お肉が食べにくいなら、卵・豆腐・ヨーグルト・魚の缶詰が便利です。
接骨院に通う70代女性は「朝にゆで卵を1個足しただけで、体力が違う気がする」と話していました。
野菜はスープに変える
サラダを山盛りに出されても、噛むのが大変で残してしまう方が多い。そんなときは野菜スープや味噌汁に入れると、消化しやすく温かくて食べやすい。
工夫② 「見た目」と「香り」で食欲を刺激する
人は味覚だけでなく、視覚や嗅覚でも食欲を感じます。
鮮やかな色の野菜や、香ばしい焼き魚の匂いは「食べたい」という気持ちを呼び起こします。
高齢者運動教室で食事の話をしたとき、参加者の一人が「茶色い煮物ばかりだと食欲が出ない」と笑っていました。そこで赤いパプリカや緑のブロッコリーを添える工夫を伝えたら、「食卓が明るくなって食欲も出た」と報告がありました。
工夫③ 食べやすい形にする
噛む力が弱い、飲み込みに不安がある方には、食材の形を工夫します。
- 肉はミンチにしてハンバーグやつくねに。
- 野菜は煮込みやスープで柔らかく。
- 魚は缶詰やほぐし身にすると食べやすい。
寝たきりの患者さんのお宅では、娘さんが「父が食べやすいように」と野菜をミキサーにかけてスープにしていました。無理に“普通の形”にこだわらず、食べやすさを優先することが大切なんです。
工夫④ 間食をうまく利用する
三食で十分に食べられない場合は、間食が栄養補給のチャンスです。
バナナやチーズ、ナッツ、栄養補助ゼリーなどは少量でもエネルギーや栄養が取れます。
部活の学生に「補食」としてプロテインやおにぎりを勧めるのと同じで、高齢者にとっての間食も大事な“栄養の追い足し”になります。
工夫⑤ 水分と一緒に栄養をとる
食欲がなくても、水分は比較的とりやすい方が多いです。そこでスムージーや栄養ドリンクを活用するのも一つの手。
ただし糖分の取りすぎには注意。牛乳や豆乳ベースに果物を加えると、自然な甘さで飲みやすくなります。
工夫⑥ 「誰かと一緒に食べる」
一人での食事は食欲低下の大きな要因です。
実際に、一人暮らしの高齢女性が「息子夫婦と一緒に食べると箸が進む」と笑っていました。食事は栄養だけでなく、会話や雰囲気も大きな調味料になるんですね。
食欲が落ちても安心!1日の食事+間食ルーティン例
「何をどのくらい食べればいいのかわからない」という声をよく聞きます。
そこで、接骨院や往診先で実際にアドバイスしている“現実的なモデル例”を紹介します。量は無理のない範囲で調整してください。
🌅 朝食:軽くてもたんぱく質を
- ゆで卵 1個
- ヨーグルト(小鉢)+バナナ半分
- 味噌汁に野菜を少し入れる
👉 朝は食欲が出にくいので「軽くても栄養が入る」形がポイント。卵と乳製品でたんぱく質を補給。
🌞 昼食:色と香りで食欲アップ
- 柔らかめのご飯(茶碗半分〜1杯)
- 鮭の塩焼き(小さめ)
- 野菜スープ(にんじん、ブロッコリー、玉ねぎなど)
- みかん1個
👉 鮭の香ばしい匂い、野菜の彩りで食欲を刺激。ご飯は少なくてもOK。スープで栄養をカバー。
🍪 間食:栄養補給のチャンス
- ナッツひとつかみ
- チーズ1切れ
- 牛乳や豆乳コップ1杯
👉 少量でもエネルギーとカルシウムを効率よく補給。甘いものが欲しい場合はプリンや栄養ゼリーを選ぶと負担にならない。
🌙 夕食:無理なくバランスを
- 豆腐とひき肉の煮物(やわらかくて食べやすい)
- 野菜の煮浸し(小松菜やほうれん草)
- ご飯(少なめ)
プラス(この中で1つをチョイス)
- みかん 皮をむくだけ。甘酸っぱさが食欲を刺激し、水分も補給できる。
- バナナ 皮をむくだけでOK。やわらかく消化しやすく、ビタミン・ミネラルも摂れる。
- キウイフルーツ(半分に切ってスプーンで) 香りがよく、酸味がさっぱりして食欲を誘う。
- ぶどう(種なし) 一粒ずつ食べやすい。冷蔵庫から出すだけで、香りと甘さが口に広がる。
👉 夜は消化の良さを優先。温かい料理ややわらかい食材で締めると、翌日の胃腸がラク。
実際の患者さんの声
往診で訪ねている80代の男性にこのルーティンを提案したところ、「朝は半分しか食べられなかったのが、ヨーグルトとバナナなら自然と食べられる」と言っていました。
接骨院に通う70代女性は、「間食にチーズとナッツを取り入れたら、夕方のふらつきが減った」と話していました。
まとめ:無理に“量”を追わず“質と工夫”で
大切なのは「食べられる形に変える」「無理をしない」「少しずつ足していく」。
それだけで毎日の体調は確実に変わります。
現場で感じること
高校野球部やバスケットボール部でトレーナーをしていたとき、体づくりのために食事指導をしました。ところが「お腹いっぱいで食べられません」と言う選手が必ず出てくる。そんなときは一度に食べる量を減らし、補食や間食を増やすように工夫しました。
これは高齢者の食欲低下への対応と同じ考え方です。“一度に頑張らない、少しずつ足す”。この発想がとても大切だと感じます。
小さな工夫の積み重ねが大きな差になる
食欲が落ちるのは自然なこと。ただ、少量でも栄養をしっかり補う工夫を積み重ねれば、筋力や免疫力を守ることができます。
「朝は卵」「昼はスープ」「間食はチーズ」「夜は豆腐と煮物」――このくらいシンプルに考えて始めると続きやすい。
少量でも栄養を意識する、見た目や香りを工夫する、食べやすい形に変える、間食を取り入れる、水分で補う、そして誰かと一緒に食べる。
「もう年だから仕方ない」と思わずに、できる工夫から始めてみてください。
体は正直です。食べる工夫をすれば、筋力や気力がしっかり応えてくれます。
新潟市中央区長潟3-2-2 たかやま接骨院 高山 慶市
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