「最近、立ち上がるのに時間がかかる」「階段を上ると息が切れる」
そんな声を接骨院の現場でよく耳にします。年齢を重ねると筋肉は誰でも少しずつ減っていきますが、そのスピードは人によって大きく違います。日々の生活習慣で、その差は大きく広がるのです。

今回は、加齢による筋力低下を防ぐために自宅で簡単にできる運動5選を、私の体験談や患者さんの事例、そして専門的なデータを交えながらご紹介します。
加齢で筋肉はどう変化するのか?
人間の筋肉量は30歳前後をピークに徐々に減り始めます。特に60歳以降は、10年ごとに約15%の筋肉が失われるというデータがあります(厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」)。

筋力の中でも特に太ももの前(大腿四頭筋)やお尻の筋肉(殿筋群)が弱くなると、立ち座りや歩行が不安定になり、転倒や寝たきりのリスクが高まります。実際、日本の調査では下肢筋力が弱い高齢者は転倒リスクが約2倍に増えると報告されています(東京都健康長寿医療センター研究所)。
私が往診している80代の男性の患者さんも、足腰の筋力が極端に落ちてしまい、日常生活のほとんどが介助に頼る状態になっていました。ご本人は「若い頃は体力に自信があったのに、こんなに早く動けなくなるとは」と悔しそうに話されていました。
一方、畑仕事を続けている70代の女性は、毎日の農作業で自然としゃがむ・立ち上がる動作を繰り返しており、筋力の衰えがほとんど見られません。年齢は同じでも、生活習慣でここまで差が出るのです。
自宅でできる筋力低下予防の5つの運動
1. 椅子からの立ち座り運動
- 方法:椅子に座り、手を使わずに立ち上がり、ゆっくり腰を下ろす。10回×1〜2セット。
- 鍛えられる部位:大腿四頭筋(ももの前)・大殿筋(お尻)。
- データ:週3回・12週間の椅子立ち座り運動で、歩行速度が平均11%向上したという報告があります(Journal of Geriatric Physical Therapy, 2015)。
ある70代女性の患者さんは、この運動を毎日続けたことで、外出時に杖を使わなくても歩ける距離が増えました。「立ち上がりが軽くなって気持ちも明るくなった」と喜ばれていました。
2. かかと上げ(カーフレイズ)
- 方法:立った姿勢でかかとを持ち上げ、2秒キープして3秒かけて下ろす。20回。
- 鍛えられる部位:下腿三頭筋(ふくらはぎ)。
- 効果:血流促進、むくみ・冷え予防。
- データ:下腿筋力を鍛えると、転倒率が約40%低下したというメタ分析があります(Cochrane Review, 2019)。
接骨院に通っていた60代男性は、夕方になると足のむくみが強く、靴がきつくなることに悩んでいました。かかと上げを習慣にしてから、むくみが軽減し、ウォーキングも快適になったと話してくれました。
3. 片足立ち
- 方法:歯磨き中などに片足で立ち、30秒キープ。左右交互に。
- 鍛えられる部位:体幹筋群、バランス感覚。
- データ:東京都健康長寿医療センターの研究によると、片足立ち時間が15秒未満の高齢者は転倒リスクが高いとされています。
体育館で行っている高齢者運動教室では、最初は5秒も片足で立てなかった方が、数週間で30秒立てるようになりました。「転びにくくなった」と自信を持たれる姿を見て、指導している私も嬉しくなります。
4. 膝伸ばし運動(レッグエクステンション)
- 方法:椅子に座って背筋を伸ばし、片足を前に2秒かけてまっすぐ伸ばして5秒キープし3秒かけてゆっくり戻す。左右10回ずつ。
- 鍛えられる部位:大腿四頭筋。
- データ:週5回・8週間続けると、膝関節伸展筋力が平均20%向上したという研究があります(Geriatrics & Gerontology International, 2014)。
高校バスケット部のトレーナーをしていたときも、膝のケガ予防としてよく取り入れていました。シンプルですが、立ち上がりや階段昇降の動作に直結する大切な筋肉を強化できます。
5. タオルギャザー(足指トレーニング)
- 方法:椅子に座り床にタオルを広げ、カカとは床に着けて足の指でたぐり寄せる。左右10回。
- 鍛えられる部位:足底筋群(足裏の筋肉)。
- データ:足趾把持力が強い高齢者は、歩行速度とバランス能力が有意に良好であると報告されています(日本老年医学会雑誌, 2018)。
往診先の80代女性にこの運動を指導したところ、「足の指がしっかり使えるようになって、畳の上でつまずかなくなった」と笑顔で話してくれました。
栄養と休養も大事な要素
運動とあわせて、栄養と休養も筋力低下を防ぐ大きな柱です。
- 筋肉はたんぱく質から作られるため、卵・魚・大豆製品を意識的に摂取する。
- 睡眠中に筋肉は修復されるため、1日6〜7時間の睡眠を確保する。

実際に50代の患者さんで、睡眠不足が続いて慢性的な腰痛に悩んでいた方が、生活リズムを整えたことで痛みが軽くなり、筋力トレーニングも無理なく続けられるようになりました。
まとめ:小さな積み重ねが未来を変える
加齢による筋力低下(サルコペニア)は避けられませんが、日常に運動を取り入れることで、そのスピードを大幅に遅らせることが可能です。
- 椅子立ち座りで「立ち上がる力」を維持
- かかと上げで「下半身循環」を改善
- 片足立ちで「転倒予防」
- 膝伸ばしで「歩行力」を強化
- タオルギャザーで「足裏の安定」を守る

私は60歳を過ぎた今も、毎朝のストレッチや軽い筋トレを欠かさず続けています。患者さんや学生から「先生、まだまだ元気ですね」と言われるのが何よりの励みです。
あなたもぜひ、今日から5つの運動を日常に取り入れてみてください。未来の自分の体が、その努力にきっと応えてくれるはずです。
新潟市中央区長潟3-2-2 たかやま接骨院 高山 慶市
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